EXAMシステム

EXAMシステム (EXAM System)編集

一年戦争時にフラナガン機関の研究者クルスト・モーゼスが開発した、モビルスーツ用の特殊オペレーション・システム及びそのハードウェア。システムはハード・ソフト共にクルスト独自のノウハウで構築・調整されている為、彼以外の人間にシステムの完全再現を行う事は不可能。システム名の「EXAM」は「尋問」や「審問」を意味する「Examination」から取られている。

クルストは当初、ニュータイプの戦闘能力を再現するサポートシステムの研究を行っていたが、開発を進める中で次第に高い戦闘能力を持つニュータイプに恐怖を覚え、「ニュータイプが人類に代わる進化した種であるのなら、我々オールドタイプはやがてニュータイプによって駆逐されるのではないか」という強迫観念に取り憑かれていった。その結果、研究内容も「ニュータイプの能力を再現するシステム」から、やがて「ニュータイプを殲滅する為のシステム」へと変貌を遂げていった。

システムはイフリート改に搭載され、開発にはニュータイプの少女マリオン・ウェルチが携わり、ニュータイプの戦闘能力を抽出し、それをコンピュータにプログラムする形で開発が行われていたが、研究所側が博士の理論に対して批判的で、実験設備などの面でかなり冷遇していた事もあり開発は難航。そんな中、テスト中に偶発的に発生した暴走事故でマリオンの精神が取り込まれた事で安定して機能するようになり、間もなくシステムは完成に至った。しかし、この事故によってマリオンは意識不明の状態に陥っている。

事故を切欠にシステムは安定化したものの、5分間の暴走時に見せた驚異的な性能を発揮するには至らず、暴走状態の継続がパイロットと機体の限界時間に大きく左右される事を知ったクルストは、より高性能な機体を求め、オデッサ作戦直前に連邦軍へと亡命。陸戦型ガンダムをベースにした「ブルーディスティニー」シリーズを開発した[1]

システムは通常、50%機能しており、パイロットが選択した動作をさらに適切なものへ修正[2]する事により、ニュータイプに近い戦闘動作を擬似的に再現し、ニュータイプ以外の一般パイロットが搭乗してもニュータイプと同等の戦闘力を発揮するように機能する。

しかし、ニュータイプの脳波を感知した場合、システムはニュータイプの殲滅を優先し、パイロットの制御を離れてシステムの機能を100%発揮した「暴走」に等しい自律行動を行る。一度暴走状態に陥ると、パイロットや機体への負担を無視して周囲にいる者を敵味方関係なく攻撃する恐るべきシステムへと変貌する。これは「暴走」ではなくクルストによって意図された正常な動作であるが、通常は機体の損耗を考えて抑制されているハード性能の限界を引き出し、機体の性能をフルに発揮しようとする為、駆動部や動力部への過負荷によるオーバーヒートの危険性が伴う。

また、開発者の意図しない欠陥・暴走と呼べる事象も存在しており、戦場で多数の人間の死を感知した場合にも暴走が起こってしまう。これについてはEXAMの中核を成すマリオンの精神の影響を受けているともされる。他にもEXAMシステム搭載機が付近に複数存在した場合にも互いをニュータイプと誤認して同様の動作を起こしてしまう。システムを制御し、その機能を最大限に活用する為にはパイロットの存在が必要とされる。パイロットはシステムの殲滅衝動やマリオンの幻影による救済祈願など様々な精神的影響を受ける為、特にシステムとの親和性の高いパイロットの搭乗が必要とされる。

一方、連邦軍にてブルーディスティニーの開発を担当していたアルフ・カムラは博士の真の目的を知らされないまま開発を進めていたが、実験を重ねていく中で暴走のメカニズムに疑問を持ち、暴走した1号機が連邦軍の部隊を襲撃したのを機に、独自に開発したリミッターを1号機および3号機に設けている。これはEXAMシステムを暴走させる事無く約5分間だけ故意に100%機能させ、パイロットと機体が崩壊する前にシステムを強制的に停止させるというものであり、このリミッターにより兵器としての完成度を高めた。ただ、暴走のメカニズムについて完全に把握しきれていなかった事もあり、ニュータイプとの接触やEXAM搭載機同士の相対に伴う暴走などの問題が依然として残されている。

EXAMシステムは全4基が完成するに至り、イフリート改やブルーディスティニー1~3号機に搭載された。一年戦争においてEXAM搭載機は数奇な運命を巡っており、ブルー1号機がイフリート改と、3号機がジオンに強奪された2号機と対決し、いずれも相討ちとなり、EXAM搭載機は全機が失われる結末となった。また、EXAMに関する開発資料も大半が喪失したため、EXAMシステムに関する記録が公式記録上に残る事はなかった。

登場作品 編集

機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY
初出作品。作中に登場するブルーディスティニーシリーズ及びイフリート改に搭載されている。ゲーム中はシステムに関する詳細はあまり描写されず、ステージ開始前のインターミッションなどで断片的に語られる程度に留まっている。そのため、詳細に関しては攻略本や資料本などで掘り下げられていく形となった。
機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY (高山瑞穂版コミック)
作中において、マリオンの幻影がユウなどの前に現れ、救済を求める描写があり、以降の媒体でも反映されるようになった。
覇王ゲームスペシャル「機動戦士ガンダム外伝 テクニカルガイドブック」
攻略本全3巻に掲載されているイラストストーリー「蒼き死神の系譜」「蒼き騎士の探求」「蒼き騎士と眠り姫」において、EXAMシステムの開発~システムを巡る戦いの決着までの掘り下げが行われており、特にシステム開発中のマリオンの心情やシステムの完成に至った暴走事件など、ゲームの裏設定にかなり力が入れられている。
機動戦士ガンダム外伝 資料設定集
裏設定を含むゲーム製作時の資料を基にしたルポタージュ風の解説コーナー「"EXAM"システムの真実」が掲載されており、ルポライターのジェシカ・ドーウェンのルポタージュという体裁でシステム開発~搭載機全滅までの流れが語られている。
機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY (小説版)
作中の描写においてシステムの発動中、パイロットが様々な精神的影響を受けている描写があり、殲滅衝動が発現するだけでなく、脅威度の大小に関わらず敵の殺気を感知するというニュータイプ能力が付与されているような描写も見られる。意識不明だったマリオンについても物語のラストで回復した事が仄めかされている描写がなされている。
機動戦士ガンダム サイドストーリーズ
機動戦士ガンダム外伝 ミッシングリンク』との関連要素として、EXAMの派生システム「HADES」が登場。量産を前提とした試作システム「オルタ」をベースとしているが、この「オルタ」をブルーディスティニー1号機に搭載した結果、「ブルー」本編における暴走が起きた事になっている。
機動戦士ガンダム外伝 ザ・ブルー・ディスティニー
1号機の頭部設定を反映し、新たに搭載機としてブルーディスティニー0号機が登場した。HADESの設定も「サイドストーリーズ」から反映されている。なお、作中では博士がニュータイプに恐怖心を抱くようになった経緯が「サイコミュシステム初期試験型ザクのテストで成果を挙げるマリオンの能力に恐怖した」という形になっている。
マスターアーカイブ モビルスーツ
「マスターアーカイブ モビルスーツ RX-79BD ブルーディスティニー」においてシステムに関する解説も掲載されており、『ザ・ブルー』の設定に準じたものとなっている[3]。数少ない資料と証言から内部機構を推察しているという体裁もあってか、「瞬間的な自律制御という形でパイロットに対してニュータイプ的な勘を付与する仕組み」など従来設定とは異なる部分も散見される。
機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE
ストーリーイベント「0086 ペッシェ・モンターニュ ~水の星にくちづけをI~」のシナリオパートにて、インコム同様ニュータイプの動きをトレースしたOSの研究でかつて行われていた研究として名前が挙げられている。

搭載機編集

ジオン公国軍 編集

イフリート改
ジオン軍唯一のEXAM搭載機。開発当時最新鋭かつ高性能だったイフリートをベースにしているが、冷却性能の関係から頭部が大型化しており、またシステムに機体性能が追いついていなかった事から、クルストが連邦に亡命する要因となった。
イフリート改 (空間戦仕様)
『ザ・ブルー』において、EXAMシステム開発テストの初期段階で運用された際の仕様。

ブルーディスティニー系列機 編集

ブルーディスティニー0号機
クルストの連邦亡命後、陸戦型ジムをベースに開発が行われた連邦初のEXAM機。要求性能の関係でより上位の陸戦型ガンダムをベースに1号機が開発された。
ブルーディスティニー1号機
陸戦型ガンダムをベースに開発された機体。開発期間の短縮を目的に、0号機から頭部をそのまま移植されている。後にEXAMにリミッターが設けられた上でユウ・カジマによって運用された。
ブルーディスティニー1号機【ステルス】 / ブルーディスティニー1号機【フルアームド】
『ザ・ブルー』における1号機の装備バリエーション。
ブルーディスティニー2号機
ブルーディスティニーの2号機。他の機体とは異なりEXAMにリミッターは設けられていない。ジオンに強奪され、ニムバス・シュターゼンが搭乗。
ブルーディスティニー3号機
ブルーディスティニーの3号機。1号機と同様にEXAMにリミッターが設けられている。
ブルーディスティニー2号機 (ザ・ブルー版) / ブルーディスティニー3号機 (ザ・ブルー版)
『ザ・ブルー』における2号機および3号機。こちらはRX-80をベースとしている。

ガンダムシリーズにおける他の搭載機 編集

ジムスナイパーK9
ガンダムビルドファイターズ』の登場ガンプラ
ゴーストジェガンF
ガンダムビルドファイターズA-R』の登場ガンプラ。
陸戦型ガンダム (市街地戦仕様)
ガンダムブレイカー バトローグ』の登場ガンプラ。
ゲルググ(EXAM搭載型)/ギャン(EXAM搭載型)
ゲーム『GNO』において、クルストの連邦への亡命を阻止してジオンで開発が続けられたという架空展開のもとで作られた機体。

関連人物 編集

クルスト・モーゼス
開発者。マリオンを引き取った後、次第にニュータイプの持つ能力に恐怖心を抱くようになり、ニュータイプであるマリオンの力を利用して逆にニュータイプを殲滅するためのシステムを開発した。最終的に博士の行方を追っていたニムバスにより抹殺される末路を迎えた。
マリオン・ウェルチ
システムの開発に携わったフラナガン機関のニュータイプ。システムにニュータイプの動きを教育させる役割を担っていたが、実験が繰り返される中で、ある時システムに精神が取り込まれてしまい、それと同時にシステムが完全に機能するに至った。
アルフ・カムラ
亡命後のクルスト博士と共に開発に携わる事になった技術者。当初は開発に乗り気ではなかったものの、技術の全てをつぎ込んでいく内にブルーの開発が彼の全てになっていった。
ニムバス・シュターゼン
「騎士」を自称するジオン軍人。作戦中の上官殺しで左遷された後、EXAMシステム開発のテストパイロットを担当。以後、EXAMシステムに執着し、クルスト亡命後のEXAMを巡る戦いに身を投じた。
ユウ・カジマ
第11独立機械化混成部隊、通称「モルモット部隊」の隊長。作戦中に突如襲撃してきたブルー1号機の撃退に成功した事から、その技量に着目したアルフによりブルーの専属パイロットに任命される。以後、EXAMを巡る戦いでブルーと共に様々な死線を潜り抜けていった。
レビル
連邦軍の将軍。システム開発の後押しに力を入れており、当時実験中だったマグネットコーティングの技術提供などを行っている。
ジェシカ・ドーウェン
フリーのルポライター。ガンダムのシミュレーターに勝利したユウ・カジマの存在を知った事を切欠に、公式記録に無いEXAMシステムの存在について取材を行った。

関連技術 編集

HADES
EXAMシステムのデータを基にオーガスタ研究所が開発した特殊システム。ペイルライダーに搭載されている。
EXAMの基礎データ及びサンプルは上層部の圧力によりEXAM研究所からオーガスタへ提供されたが、完全なコピーには至らなかったためシステムのアプローチ方法は異なっている。
完成に至るまでの試作品として「ZEUS」「AREUS(ARES)」「THEMIS」が存在している。
NEO EXAMシステム
シン・フェデラルが「妖刀」を開発する為の素材としてEXAMを解析して開発したシステム。ブルーディスティニー・Ωに搭載されている。
EXAMの再現を試みたシステムであったが、肝心のEXAMのデータがほとんど存在しない状態であった為、独自理論を組み込んで完成した。
妖刀システム
シン・フェデラルが開発した、ストライカー・カスタムに搭載されている特殊OS。EXAMシステムの解析データ及びイットウの感応波を元に、強化人間プロジェクトの一環として、波動の影響を用いた人類のニュータイプへの覚醒促進を目的に開発された。システム起動時のコンソール表示から、ムラサメ研究所の関与が疑われる。[4]
強化人間人格OS (BUNNyS)
ガンダムTR-6に搭載されている特殊OS。強化人間のデータを移植し、EXAMと同じくその能力の再現を目指したシステム。
人間のデータをコンピュータに移植するというアプローチ方法がEXAMと酷似している。
n_i_t_r_o(ナイトロ)
ティターンズの開発したパイロットを強化人間化するシステム。このシステムの開発を主導していたロック・ホーカーはクルストと同じ思想に取り憑かれており、n_i_t_r_oはニュータイプに対する自衛手段として開発していた旨を語っている。
NT-Dシステム
UC計画で開発されたRX-0専用の特殊OS。EXAMと同じく「ニュータイプ殲滅」を目的としたシステムであるが、こちらは「ジオン・ズム・ダイクンの提唱したニュータイプ思想を根絶する」という意図が含まれており、クルストの掲げた「変異体としてのニュータイプの殲滅」とはニュアンスが異なってくる。

関連物 編集

人類は"EXAM"になれるのか
EXAMシステム開発の原点とも言えるクルストの著書。内容は「人類はいずれニュータイプによって裁かれるのではないか?」という博士の理論に留まらず、人類の歴史や生態学にまで至っている。「機動戦士ガンダム外伝 資料設定集」においてはこれによって博士がニュータイプ研究所に迎えられたと説明されているが、ニュータイプの軍事利用を進める研究所の方針と反するため、この招致には疑問符が残る。

余談 編集

  • 高山瑞穂コミック版「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」のゲーム雑誌「覇王マガジン」連載版第1話において、1コマだけ「EXAMエニグマシステム」と、ルビに誤記があるコマがある(単行本では修正済み)。ガンダムでエニグマと言えば、ゲームブック「機動戦士ガンダムΖΖ エニグマ始動」が印象的である。
  • システムの動作・暴走条件として「殺気を感知」というものが幾つかの資料で見られ、WikipediaのEXAMシステムの記事では2007年1月11日の更新分から確認できるが、出典は明記されていない。小説版ブルーでも殺気を感知する描写はあるものの、あくまでシステム発動中のパイロットが感知している描写である。

リンク編集

脚注編集

  1. この頃のクルストにとっての敵は「ニュータイプ」であり、それを倒す為ならジオン・連邦という垣根は些細なものになっていた。
  2. 敵弾を回避する際、通常の機体であればパイロットが指示した方向へ「移動する」事で避けるしかないが、EXAM搭載機であれば「上体をひねって」回避するという動作へ修正するといった具合。
  3. ただし、EXAMシステムの開発にRX-80の素体を提供する計画が実現しなかったという扱いであり、ゲーム版『機動戦士ガンダム外伝 ミッシングリンク』に準じた世界観と見て取れる
  4. コンソール表示は『妖刀 SYSTEM ver8/93 E36-7754X MURASAME INSTITUTE』